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16. 長さと面積

16.1 長さを測る課題


16.1.8 ベクトルは力学用語であること

 ベクトルは、中学までの数学には説明がなく、高校の数学になって出てきます。力や運動を扱う力学に応用する数学量の顔を持ちますので、幾何と関連づけた説明は多くありません。ベクトルは、図として向き大きさとを表す量として直感的な理解に訴えます。位置ベクトルとして使うとき、ベクトルの大きさが距離を表します。ベクトルを数学的に表すときに、座標系を使い、代数的な算法を応用します。大きさは数の大小で扱うことができますが、向きは位相幾何学的な性質ですので、代数的に一意に正負の符号をつけた量として表すことができません。正のベクトル、負のベクトルとは、その場面での向きの約束を決めた上での相対的な定義として使います。平面ベクトルを最も直感的に表すとき、ベクトルの起点を原点とした極座標を使います。向きは、ある基準方位から相対的に左周りの角度で測ります。ベクトルを代数学的に扱うとき、ベクトルの和・差・スカラー倍までは線形演算ができます。積は幾何学的には二種類の約束、内積外積(またはスカラー積とベクトル積)があります。ベクトル積は、向きの約束とからんで、積の順序を変えると符号が変ります。このことが嫌われていて、ベクトルとマトリックスとを扱う線形代数では、交換法則が成立するスカラー積だけを使います。三次元ベクトルのベクトル積は、力学的には三次元的にモーメント(日本語では能率と当てます)を表す演算に主な利用があります。この約束には、右手系の直交座標系の定義を踏まえます。これは感覚的な理解に訴えるところがあります。代数的に式を扱うだけで説明しようとすると、符号の付け方でしばしば混乱を起こします。三次元の幾何学的性質を通常の代数式で表すと、座標軸方向別に三つの式を並べることになります。すっきりとした表現にしたいとして、特別な座標系の定義をする例も見受けます。ベクトルを使う表現方法で整理すると、ベクトルを表す座標系の約束を後で考えることができます。
2009.4 橋梁&都市PROJECT

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