ある目的地までの道順を相手に教えたいとき、それを正しく理解する過程に、男女差があることが分かってきました。この遠因は、人類進化の歴史とからんだ遺伝的なものであって、個人の能力差による違いとは別です。座標幾何学的な一般論で言うと、男性は、地図を見て、絶対座標系での道順の説明を理解します。地図を上下逆にして見る場合も、絶対的な方位を自分なりに補正しています。一方、女性は自分を基準とした、つまり主観的な相対座標系の方で理解する傾向があります。女性は、自分の向く向きに何かの目印を指定し、そこに行ってから、改めて左右にある次の新しい目印を指定して進む方法を好みます。道順を教える地図は、距離などの表示が不正確であっても気にしません。左右の向きは、本人が角を曲がると絶対的な方位が変わります。また、行きと帰りとで別の案内をしないと迷子になることがあります。男性の場合には、地図案内で教えてもらっても、別のルートを通る方法を試すことが普通に見られます。この場合の地図は、尺度などが幾何学的に正しいことを要求します。都市では階数の多いビルが増えてきましたので、住所表示も三次元化しています。デパートなどでウインドウショッピングをしているとき、男性の場合、今居る位置の階数や絶対的な方位を気にする傾向があるようです。幾何の問題では、感覚的な理解に頼る向きの性質を扱うときに説明に苦労することが起こります。代数学を幾何に応用し、さらに数値化して実用に使うとき、式の提案者は、自分なりの世界観、つまり座標系を考えていますが、相手が必ずしも同じ理解の過程をたどるとは限りません。これが、幾何学が感覚を共有できる場面では易しく、また、そうでないときは非常に難解になることの理由です。
2009.4 橋梁&都市PROJECT |