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5. 土木工学と曲線

5.1 地球の上の作図


5.1.5 道路と鉄道の線形は立体曲線であること

 地図の上で真っ直ぐに伸びている道路や鉄道の線形は、立体幾何学的に見れば、非常に緩やかな高さ方向の反りを持った立体曲線です。スケールが大きいので実感できませんが、望遠鏡を通して光学的に水平で真っ直ぐな見通し線で水平高さを揃えると、地球の丸みの影響を受けて、距離が離れるにつれて水準高さが狂います。重力の加速度も、標高と場所によって変わりますが、こちらの影響は実用的には無視できます。地球は、半径が約6400kmの球です。丸みの影響は、実際の土木構造物の幾何学的な設計で微妙に効いてきます。鉄道車両は勾配に敏感です。緩やかな流れの河川勾配は、光学的な水平線とは違う、曲面を持った水準面を基準にしなければなりません。広い海で、或る高さhメートルから、眼に入る水平線までの距離Lキロメートルを求める式は、三角関数を応用して簡単に得られ、近似的にL=3.6√hです。数値的な例を上げます。見通し距離で720mでは、中央で1cm水準高さが狂います。全長で7.2kmのトンネルを光学的に真っ直ぐに掘ると、トンネル中央は相対的に1m低くなります。したがって、長いトンネルを見通しで両方の入り口を同じ水準高さにして光学的に真っ直ぐな線形で設計すると、トンネルの中央に水が溜まることになります。富士山の高さ約3800mから見える範囲は半径約200kmです。逆に言えば、富士山から200km離れた洋上では富士山は見えなくなります。
2008.5 橋梁&都市PROJECT

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