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1. 座標系と長さの概念

1.2 座標系の約束


1.2.4 他人に道順を教えるとき

 住所表記を頼りに、或る場所に行きたいとします。幾何学的には、今居る場所と目的の場所とを折れ線または曲線で結ぶことですので、言わば、作図手順を考えています。迷ったときに他人に道順を教えてもらう方法を考えて下さい。教える側に立つとき、その場所の世界座標を使う場合と、人の側で考えた局所座標を使う場合があります。京都や札幌の町並みは方眼状になっていますので、東西南北の言葉を添えて距離を教えます。京都の場合には南北に代えて「下がる・上がる」を使います。これは世界座標系を応用する表現法です。方位がよく分からない場所では、例えば「真っ直ぐ行って三つ目の交差点を右に曲がって、100m行って左側のビルの3階」のように教えます。これは、自動車または歩いている人の向きを基準とした局所座標系を使っています。右または左に角を曲がると、世界座標の中で局所座標の向きが変わります。方向感覚は、理性的な理解と言うよりも、かなり動物的であって、男女差があります。多くの女性は、地図を見て位置を理解するのが苦手であって、即物的な自己中心的な方法で理解しようとします。道順も、目印のある所まで行って、右左の指示をする方で理解します。前後・左右・上下の用語は、局所座標の場合に使います。ところが、世界に何百もある言語種類の中には、左と右を示す語彙の無い言語があるそうです(もし「右」や「左」がなかったら、井上京子、大修館書店、1998)。そのような言語は、太平洋の海洋民族の言語や、オーストラリア原住民の言語に見つかっています。どちらも、目印のない広い海洋や大陸が居住空間ですので、太陽や星の位置を基準とした絶対的な東西南北の向きを、身近な位置を表す基準にも使うのだそうです。
2008.1 橋梁&都市PROJECT

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