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1. 座標系と長さの概念

1.2 座標系の約束


1.2.3 幾何学的な国境線は土木技術者が設定したこと

 世界地図でアフリカ・北アメリカ・オーストラリアを見ると、国境線や州境線が地球の緯度・経度に合わせて制定されている個所が多く見られます。アマチュアが趣味で天文観測をする場合、観測地点の緯度・経度を知る方法は基礎的な知識に属しています。しかし、緯度・経度が分かっていても、方位は簡単には分かりません。夜になって北極星を見る向きを観測すれば、実用的な精度で真北が分かります。しかし、昼間や曇った日ではこの方法が使えません。山登りを趣味とする人ならば、少なくとも方位を知る磁石は持つべきでしょうが、磁針の示す向きは真北と少しずれています。カーナビ(car navigation system)は、GPSの電波を受信して位置は分かりますが、車がどちらを向いているかは教えてくれません。そのため、内部的に方位磁石を持たせます。洋上の船舶や航空機ではジャイロスコープを搭載していて、絶対的な方位をこれで知ります。地球規模ではなくても、身近な生活空間では、東西南北の正確な方向を踏まえたローカルな座標系を使います。住宅の向きがそうです。直線の方向を正確に地球の東西・南北に揃えようとなると、普通の人の手には負えなくて、測量を専門とする会社に依頼しなければなりません。この技術はピラミットに代表されるように、古くから研究されてきました。日本では、奈良市・京都市・札幌市の道路計画は地球の東西南北を正確に踏まえています。しかし、他の一般の都市計画では、部分的に碁盤の目のような区画に区切られていても、正確に東西南北方向に揃っていないのが普通に見られます。結果として家屋の向きも道路線に揃えることが多くなり、幾何学的に見れば、雑然とした町の景観になります。都市や住宅計画を専門家と称しても、測量学の常識的な技能や知識を持っている人は多くありません。
2008.1 橋梁&都市PROJECT

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