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12. 実用文書作成と話し方

12.3 実用文書のまとめ方


12.3.3 書式と体裁の知識が要ること

 実用文書は、伝えたい用件に応じた、一般的な書き方の標準があります。これが書式と体裁です。例えば、何かの届けや申請をするときに役所の窓口に出す書類は、現在ではあらかじめ形式の決まった印刷用紙が用意されていて、必要なところに書き込めばよいようになっています。元々は、個人が手書きで書類を作成するのが原則でした。しかし、人によって形式が異なると書類を受け付ける側の扱いに困りますので、一般の人は代書屋と呼ぶ書類作成の専門家の手を借りて、必要充分な書類形式に整えなければなりませんでした。印刷された申請用の用紙は、書式が手書きの形式を踏襲して作ってあります。代書のできる人を代書人と言います。以前は司法書士を指していて、それなりの専門的な知識に加えて、文字をきれいに書ける素養が必要でした。昔の武家社会では、右筆または佑筆(ゆうひつ)と言う文書の専門家が殿様に仕えましたが、現代風に言えば秘書に相当する官職です。文章を考えるのは個人の発想ですので、他人に任せることはできません。したがって、書き物にすることも、個人の責任です。責任ある長の立場に在る人は、公的な日誌的記録を書き残すことが一つの常識です。これは、本来 強制されるものではありません。現代は多忙になりましたので、この素養が意識されなくなりました。論文発表は幾らか私的な自己顕示欲があって作成します。誰かに書いてもらった原稿を自分が作成したようにすることが増え、これによる道義的な問題が多く発生しています。実用文書と対立的な位置にあるのが詩歌小説の類いです。漢詩・短歌・俳句の作成には一応の作法があります。これも、書式と体裁が関わると考えることができます。そこでは筆と墨とを使い、「書を能くする」ことも素養として必要でした。
2010.12 橋梁&都市PROJECT

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