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11. グラフィックス言語の解説

11.1 設計と製図


11.1.2 芸術的な制作では図なしで作業にかかることもする

 設計図は、それを元にして実物を製作することが目的です。文書に使う説明図は、通称でイラストと呼ばれ、理解を助けることが目的です。工業製図とは異なり、イラストは、全体の図の幾何学的形状や寸法にこだわりません。用紙上のレイアウトを考えて、縦横の寸法を適当に調整することも行われます。科学技術の測定値や数式などをグラフ化すると、全体の性質を感覚的に理解できます。これに対して、芸術作品を作成すること自体を最終目的とする場合があります。絵画や彫刻は、基本的に個人作業の一品制作です。制作者の個性的で自由な発想で直接に作業したことが評価されます。デッサンで構想を下書きする場合もあります。しかし、そのデッサンは、全く同じ作品を複数作ることが目的ではありません。今では見られませんが、紙芝居屋が使っていた絵は、一品制作されていました。日本の浮世絵は、刷りの技法を使って、複数の職人の作業工程を経て、複数の同じ作品を出版していたことが大きな特徴です。浮世絵は多色摺りですが、瓦版は速報を目的としてモノクロ版で刷られていました。日本の漫画は、個人作業で作品を発表することを超えて、工場のような環境で作品を制作するプロダクションシステムも見られます。手描きで見栄えのよい作図をすることは、或る程度の才能に加えて、技能を磨く修行が必要です。工業製図は、図が下手であっても、表現している内容に落ちが無ければ実用になります。見栄えの良い図であるのに越したことはないので、設計者は製図を専門とする図工に図面を描いてもらう分業が普通に行われていました。きれいな作図ができる道具に、コンピュータを応用する製図機械を使いたい要望が出るようになったのは自然の成り行きであって、この全体がコンピュータグラフィックス(computer graphics)の専門分野を構成するようになりました。
2010.11 橋梁&都市PROJECT

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