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8. 論理を表す文と式

8.4 プログラミングに使われる修辞学


8.4.5 仮説を認めることには慎重であること

 修辞学(rhetoric)は、言葉で相手を説得するための技術を扱う学問です。代表的な方法が三段論法です。「大前提(major premise)」「小前提(minor premise)「結論」の三つの命題(proposition)から成る推論(inference)規則です。ギリシャ時代のアリストテレスによって演繹法(deduction)に準拠して整えられました。「大前提」には法則的に導き出される一般的な原理を置き、「小前提」には目前の具体的な事実を置き、「結論」を導き出します。よく見られる例は下です。
  大前提:すべての人間は死すべきものである。
  小前提:ソクラテスは人間である。
  結論: ゆえにソクラテスは死すべきものである。
コンピュータを擬人化して説得する技術に使っても、コンピュータが納得する感覚はありませんが、論理の展開に間違いが起きないようにプログラムをした、その処理結果は信用が置けるとして、人に対して説得する資料が得られます。一般の人は、「コンピュータで計算した」と言うだけで頭から信用するのですが、実は、英語のpremiseには仮説(hypothesis)の意味があります。大前提も、また小前提も、仮説に基づく理論や法則を使っている場合が普通ですので、二分法的に正誤の拠り所に使うことには慎重でなければならないのです。一旦 仮説を正しい認めてしまうと反論ができません。コンピュータを利用する説得も、実は、かなり生臭い駆け引きが隠されています。
2010.8 橋梁&都市PROJECT

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