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2. 日本語文書の構造

2.7 作文指導法


2.7.1 言葉は発想と連想で出てくる

 言葉は、基本的に耳で聞いて、真似て発音することで覚えます。文字から覚えるのではありません。音声として言葉を聞いているとき、瞬間的・直感的に理解しています。意味を理解するには、僅かですが時間がかかります。レトリック的な言い方は、表面上の言葉の意味ではなく、その裏を理解しなければならないからです。言葉を文法構造に分解するような言語学的な方法を踏まえているのではありません。それを気にしていると、発声の速度に理解の速度が追いつきません。言葉の組み立てには、大枠の法則があります。しかし、実際に話され、また作文される自然言語は例外だらけです。そのため、自然言語の研究は、統計的または確率的な成果で満足しなければなりません。言語学の研究態度は、既に発声されて文字になった、言わば、死んだ文の構造を解析します。これから話そうとする、または、文章で表そうとする、生きた(英語で言うlive;ライブな)言葉の組み立てについては、何の役にも立ちません。話し言葉は、感覚的な発想と連想を瞬間的に声に出します。言葉に出るのは、それまでの経験以上のことは出ません。幾つかの記憶から連想が膨らんで次の言葉が出てきます。豊富な言語経験があるのが役に立ちます。おしゃべりな人は、話し出すと止まりません。同じことを何度も聞かされて迷惑することもあります。書き言葉に表すときの作文指導は、「思った通りに書きなさい」と言う以外に助言のしようがありません。既に書いたものは、後から批評を加えることができます。実用文書の作文指導は、伝えたいことが始めに分かっていますので、文単位としての書き方を定型的に提案することができ、また、全体文章のまとめ方に重点を置くことができます。
2010.2 橋梁&都市PROJECT

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