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1. 言語学が関与する環境

1.3 標準化と多様化


1.3.1 差別用語の扱いが難しい

 一つの大きな言語環境であっても、狭い範囲での方言違いは普通に見られます。人間集団には、その集団だけで通用する言葉や符丁も生まれ、これが他の集団との差別にも使われます。職業別の専門用語がそうです。仲間内だけで通用する用語や言い回しは、やや暗い影をもつことから隠語と言います。人間社会は、動物的に他者を攻撃する悲しい性質がありますので、言葉違いを身内と他者、味方と敵とを区別する手段の一つに使います。スパイ・間諜・隠密・密偵などは、相手側の集団の中に入って情報収集をする人を言います。優秀なスパイである要件の一つは、相手側の言葉に堪能であることです。これらの行為を言語操作と見ると、意図的な言葉の標準化です。それも、狭い言語環境の範囲への標準化です。差別用語は、それを使うことが相手に対して敵意や軽蔑を投げかけることになる言葉と解釈します。しかし、相手を不利にする使い方ではない差別化もあります。相手に対して礼に欠ける言葉がそうです。それらを使うことを制限することも、標準化の一面です。狭い方への標準化は、保守的な性格がありますので、好意的に見れば、その言語環境の文化を保存する上で意義があります。
2010.1 橋梁&都市PROJECT

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