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1. 言語学が関与する環境

1.1 言語学が生まれた経緯


1.1.4 言語と民族とは関連を持つこと

 言葉は、口伝えを聞いて覚えることが基本です。文字からではありません。赤ちゃんが言葉を覚えるのは、主に母親からの口伝えです。アイヌのユーカラは、母親から娘へと何代にもわたって正確に伝承されてきました。赤ちゃんには先天的な言語習得能力(遺伝形質)があります。しかし、言葉を覚えることは獲得形質の方ですので、個人差があります。乳幼児期の言語環境で、その人の言語がほぼ固定されます。したがって、同じ言語の家族の集合は、大なり小なり血縁関係が濃く、その集合が民族です。多くの民族が分布し、それぞれに固有の言語を持つのは、歴史的に民族間の交流が狭かった時代の名残です。一つの民族、一つの言語圏であっても、地域で方言差があり、地域間の距離が大きいと方言差も大きくなります。この差は、発声の違いが主です。日本では東北と九州との方言差が大きいのです。多くの方言が集まる場所では、相互の影響を受けて変質し、一種の標準化が起こります。標準語は東京言葉が元になったものです。不思議なことに、東北の北に在る札幌言葉も標準語です。しかし、微妙な差があります。その一つは、東京弁は助詞の「が」を鼻濁音で発音することです。ラジオやテレビの普及は、良くも悪くも官製の標準語を普及させましたので、一面では方言文化の衰退を招きます。
2010.1 橋梁&都市PROJECT

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