1.2 グラフィックス装置としてのモニタ

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 歴史的に言うと、コンピュータを利用するモニタは、文字の入出力に使うコンソールタイプライタに始まりました。この装置は印刷速度が遅く、用紙を無駄に消費しますので、印刷部分の代わりにCRTを使ったキャラクタディスプレイを使い、印刷には質のよい別の高速プリンタを使いました。通常のテレビと同じ方式で文字を表示させると解像度の面で見難くなりますので、ドット方式の特別なCRTモニタが開発されました。これが640×480ピクセルの標準モニタです。この表示方式は、タイプライタとほぼ同寸法で文字が読めるように考えられていて、固定幅の英字で80文字×30行を表示します。これは、近似的に1ピクセルが活字寸法単位の1ポイントに相当します。このモニタを、グラフィックスの画面としても使いたいと考えることは必然の要求です。しかし、表示原理の異なる文字と画像とを物理的にモニタ1画面で実現させるためには、ハードウェア的にもソフトウェア的にも工夫が必要でした。それを実現させたのがメインフレームのコンピュータよりも小回りの効くパソコン(パーソナルコンピュータ)でした。しかし、このグラフィックス機能は、パソコンの機種に依存することになり、また、そのパソコンに固有するBasic言語にも依存することになりました。

 モニタそのものは、コンピュータ側からみれば外部デバイスの一つですので、仕様の異なる別のモニタを接続しても同質のディスプレイが得られなければ困ります。ユーザー側がデバイスの相違に応じてプログラミングを変更する面倒さを吸収するのがデバイスドライバ (device driver)の考え方です。また、それを実現させる環境を提供するのがOSの機能です。DOS (disk operating system) は、ディスク装置の相違を吸収する目的で開発されたOSですが、モニタに関しては640×480ドットの解像度(NEC PC98系では640×400ドット)のキャラクタディスプレイを使うことを一つの前提としていました。

 DOSの環境では、モニタは原則として単機能で使います。基本的にはコンソールとして文字表示(キャラクタディスプレイ)に使い、グラフィックスは表示原理の立場からは別装置です。グラフィックスを表示するときは、内部的な処理としてグラフィックスモードに切り替えます。この状態のモニタの使い方を、キャラクタディスプレイに対してグラフィックスディスプレイと言います。同じモニタの画面に表示原理の異なるキャラクタディスプレイとグラフィックスディスプレイとが同居し、結果として重ねて表示させることができましたので、パソコン独特のプログラミング技法が使われてきました。文字寸法は、モニタの画面に対して相対的に固定した80文字×30行詰め(NECの98系では25行詰め)の等幅フォントですので、その制限の下に文字位置を画面上で正確に指定することができます。基本のグラフィックス座標もピクセル単位の絶対座標を主に使いますので、文字と図との表示方式が異なっていても表示のズレが起こらない様に合成することができます。

 Windowsの考え方は、外部装置単位で表示する画面をウインドウ単位にまとめ、複数のウインドウを一つのモニタで表示するようにしたことです。少し画面が混雑しますが、あたかも複数の外部装置、または複数のコンピュータが独立に動作しているのを一つのモニタ画面で観察するような構成になります。例えば、キャラクタディスプレイ用のウインドウとグラフィックスディスプレイ用のウインドウとを個別に開くことができます。モニタの全画面は広くありませんが、これを共通の作業台(デスクトップ)とみなし、当面の作業に使うウインドウを使い易い大きさと位置とに表示させます。この表示方法を実現させるために、WindowsのOSは、ユーザーに見えないところで内部的に膨大なグラフィックス処理をこなしています。

 デスクトップ上で、ウインドウは任意の位置と寸法を選ぶことができますので、その寸法に合わせるように、文字の字体も寸法も変えることができます。これは便利ですが、選択の種類が増えた分だけ表示方法のデザインとプログラミングに手が掛かります。キャラクタディスプレイも、原理的にはグラフィックス表示になりました。そのため、Windowsのパソコンを立ち上げた最初の画面では、キーボードからの文字入力を受け付けて表示させるキャラクタディスプレイの手段がありません。実践的なプログラミングでは、マウスによるクリックを受け付ける処理と同時に、キーボードからの文字入力を受け付けて表示ができるウインドウ、つまり、コンソールの機能を持つウインドウを設ける必要があります。そこで、ある程度標準化したウインドウのデザインをプロトタイプとして準備します。このプロトタイプとして準備するウインドウは、基本として四つ考えます。コンソールウインドウ・テキストウインドウ・そして二つのグラフィックスウインドウです。この解説は後の章で詳述します。


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