1. コンピュータグラフィックスの概観

1.1 作図装置の経緯

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 科学技術の分野では、何かの性質を数学モデルとして捉え、それをグラフに表して視覚的に理解することが普通に行われています。手描きでグラフに作図するだけでなく、実験や観測のデータはレコーダを使ってグラフとして自動的に記録させます。これらのレコーダの多くは、ペンが一方向に動く機構ですので、ロール状の用紙を一定速度で動かすことでグラフに作図します。これに対して、二方向にペンが移動できるレコーダをXYレコーダと言います。これは、1950年代までは、主として低速度のアナログコンピュータのモニタ用として利用していました。高速度の現象の観察には、CRTオッシログラフを使いました。XYレコーダを一般的な平面図形の作図にも応用したいと考えるのは当然の発想です。しかし、作図精度の面で実用になったのは、デジタル技術が応用されてからです。この装置をXYプロッタ、または単にプロッタと呼び、XYレコーダとは区別しました。

 工業の分野ではA1版のような寸法の大きな図面が利用されます。Calcomp社は、図面作成に利用する大型のプロッタを製作していた代表的な会社でした。写真から地図を作成する場合にも大きな用紙が使える図化装置が必要でした。一方で、CRTを作図画面とするグラフィックスも研究されてきました。こちらの方は一過性の画像ですので、成果品を残すための装置が別に必要です。画像をCRT画面で観察し、その結果を見て写真に撮るなり、プロッタなどに描き出します。このCRTの使い方がモニタです。パソコンが普及するにつれ、一般のユーザーは、モニタに表示する画像をテレビのように直接見て楽しむ使い方が多くなりました。そして、この分野をコンピュータグラフィックスと総称するようになり、芸術的な画像の作成にも応用するように進化してきました。しかし、レポートをまとめる場合の作図を含め、実務にコンピュータグラフィックスを利用する場合には、形の残るハードコピーで成果を得る作業が必須です。この作業の定型化が進んだ代表的な応用分野がCADと DTPです。

 ハードコピーを得る作図装置の原点がプロッタとプリンタ(印刷機)です。前者はペンで作図し、後者はドットを集合させた版で用紙の領域を埋めていきます。文字の活字は、いわば最小の版です。文字を並べ、字形の濃淡を利用すると、離れて見るとビットマップ画像を表現することができます。これがPrint Plotと言う、タイプライタを使うグラフィックスアートです。この二種類の装置は作図原理が違い、それぞれが固有の発達をしてきましたが、モノクロ印刷に使うレーザープリンタと、カラー印刷のできるインクジェットプリンタの開発によって、それらの境界が薄れてきました。現在では大型のプロッタも原理的には高画質のレーザープリンタかインクジェットプリンタを使っています。

 図を作るのは創造的な作業です。コンピュータで作図させるには、作図用の言語を使って間接的に図を描かせますので、プログラミングが必要です。グラフィックスのプログラミングは、主となるプログラミング言語に何を使うか、とからみますが、使用するグラフィックス装置(デバイス)に依存する部分が多いことと、グラフィックスを何に応用するかの専門分野に関係します。事務処理の分野では、科学技術での利用に較べると定型化したグラフィックスの使い方が多いこともあって、ビジネスグラフ(business graphics, または presentation graphics)と呼ばれるグラフィックスのユーティリティが普及しています。これは、特別なプログラミングを必要としなくて、EXCELなどの表計算ソフトから利用します。表計算ソフトは事務処理に使うソフトウェアであると考えられていましたが、関数機能が充実してきましたので、科学技術計算にも便利に利用できるようになりました。

 作図原理で分類すると、作図装置は二種類に大別します。プロッタを使って図面などを作図させる場合のプログラミングは、原理的にペンの移動で線図を描かせます。この方式の作図をline drawingと言います。欠点として、閉じた図形の内側を色や紋様で埋める作図ができませんので、線を描いて領域を埋めるハッチングの技法を使います。一方、コンピュータのモニタ画面は、細かなドットの集合で作図領域を埋めますので、この作図技法を paintingと言います。印刷で使われる写真も、拡大して見ればドットの集まりを確認できます。領域の輪郭を指定する下絵には線図を使いますので、線を引く作図命令はどちらの技法でも基本です。ただし、ドットの密度が粗いと、滑らかな輪郭や線図が描けません。モニタは、解像度が画面の寸法に較べて相対的に低いので、例えば、線を太さを変えて描かせることに難点があります。しかし、ハードコピーの方で良い画像が得られれば、モニタ上の画質には多くを望まないと妥協するのが実践的です。モニタについては次項で説明を補います。


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