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99. あとがき


990001 原稿作成の経緯

 この電子版の「技術文書の書き方とまとめ方」の草稿は、土木技術社の月間雑誌「土木技術」に連載するために書きためた作業用文書が出発です。雑誌本体に使う清書原稿とは大筋で揃えてありますが、同じではありません。雑誌の場合には、ページ数の制限と、固有の2段組み書式に合わせるため、文章の追加や削除、パラグラフ(段落)単位で章・節内での順序を変えることもしています。写真は、モノクロ版しか利用できません。電子出版の時代を迎えて、カラー写真も閲覧できるPDF版が便利になりました。その原稿は、A4用紙を一段組みでまとめます。ページ単位の納まりが良くなるように、こちらも文章の追加や削除をしてあります。もう一つの閲覧形式として、パラグラフ単位をHTML形式に落とし、インターネットの利用を考えたWEB版を作製しています。草稿全体を通して、どのように章・節・項を構成するかの大体の構想はありましたが、実際の作文作業は、思い付いたトピックを、約600字程度のパラグラフ単位にまとめ、これを最小単位の項とし、見出しを付けることから始めました。筆者の作文作業は、日数的にも時間的にもランダムです。大体の構想が決まったところで、パラグラフ単位を項単位にします。この単位で順序を並べ替え、内容の筋書きを決めて、章・節の分類に組み上げます。

 筆者は、大学と言う、教育と研究とを目的とした環境にいましたので、教科書をまとめる著作と共に、学生に、研究指導だけでなく、論文の書き方と口頭発表の仕方を指導することに時間を割く必要がありました。それも、毎年、根気良く繰り返さなければなりません。したがって、参考資料をPDF版、WEB版にまとめておくことは、教官と学生双方にとって便利です。そもそも、雑誌形式の定期出版物は、読者側から見れば、新聞と同じであって、読み捨ての閲覧媒体です。一旦発行された記事の内容は、改訂を加えた再版はされません。古い文献を見たいとしても、実物を手軽に閲覧できるサービスは、本来は発行元が責任を持つべきことです。これを公共図書館のサービスに期待していたのですが、これがあまり機能しなくなりました。教育用資料は、毎年必要部数をコピーしたい場合があります。しかし著作権や編集権の制限がありますので、弾力的に内容を変更することができません。筆者の電子版は、差し当たって私家版として公開していますが、著作作業の必要経費をどのように賄うか、そのビジネスモデルを模索しています。

コラム10: 脳梗塞で起こる言語障害

 私事ですが、筆者の養母は80歳のときに脳梗塞を発症して言語の組み立てができなくなりました。たまたま、養母は友人と話しをしていたのですが、思っていることが言葉にならなくなって、簡単な「あのね」だけしか出てこなくなりました。異変に気付いた友人が直ぐに入院の手配をしてくれましたが、数時間の間に症状が進み、発話の機能も、また文字を書いて発信する機能も戻りませんでした。お喋り好きでしたので、言葉の発信機能が失われたもどかしさのため、ヒステリー状態で奇声を上げるのを、痛ましく見ていました。不思議なことに、こちらの言う事は理解できるのです。この経験から類推したことは、脳の中では、言葉に組み立てる機能に使う情報を保存してある個所と、耳で聴いて音の並びを理解するための情報を保存している個所が別であることです。人が言葉を覚える基本的な情報は、耳で聴くことで得られ、これが強力な言語機能の骨格を構成します。英語を始め、外国語を習得するとき、耳で聴いて覚えることが基本です。子供が、寝る前に童話を聴くのを楽しみにすることも、言葉を覚える大事な勉強になっています。逆向きに、言葉の発信である作文の作業のときに経験していることがあります。作文は、頭の中で言葉を連想することから始まります。それを、頭の中で声に直し、それから文字に落とします。声に出しながら作業する人もいますが、傍迷惑なことがあります。声に出さないまでも、口の中で、もぐもぐすることもします。こどもが本を声に出して読むとき、情報が耳からフィードバックされ、始めて理解が完成するのを、改めて納得しています。なお、養母は、介護の人の言うことは判りましたので、老人ホームで88歳まで健康に過ごす余生を過ごしました。

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