目次ページ  前ページ 次ページ

9. 材料の破壊と部材の破壊

9.2 破壊の力学モデル


9.2.9 弾性設計法に応用するときの許容応力度

 構造物の設計をするとき、応力度の大きさが或る許容値に入ることを検証して安全の確認をします。最も基本的な利用形態は、細長い部材を引張または圧縮状態で使うことです。許容応力度は、材料が破壊しない状態で使うことができる応力度の大きさを、或る安全率で割った値で決めます。安全率を幾らにするかは大きな議論ですが、ここでは触れません。実際の部材の使い方は様々ですので、部材内部の応力度の分布も様々です。弾性体の力学を応用して、引張または圧縮の応力度の最大値を求めておいて、先の許容応力度で検証します。梁の設計の場合、断面の上縁または下縁で応力度が極大になりますので、この応力度を縁応力度(fiber stress)と言うことがあります。剪断応力度を検証する場面は、やや特殊です。鋼構造物では、以前はリベット継ぎ手、現在では溶接継ぎ手の寸法決定のときに必要ですので、製作時の詳細構造を決定するときに計算します。純剪断を受ける場合の許容応力度の決め方は、鋼構造物では図9.4、コンクリート構造物では図9.5に基づいて決めています。コンクリート構造物の設計では、コンクリートの引張強度と剪断強度とほぼ同じ応力度の扱いをしています。鉄筋とコンクリートとの付着応力度は、力の種類としては、コンクリート側の剪断応力度と同じです。鋼材の場合、引張と圧縮とは同じ大きさで考えることができますので、純剪断の許容応力度も、引張強度の約58%まで高めに使うことができます。しかし、例えば、プレートガーダーのウエブがフランジと接続する個所で、引張または圧縮の縁応力度σと、その場所での剪断応力度τとが共に許容応力度を満たすとしても、式9.2を応用した合成応力度が、図9.4の楕円の外側に出れば、許容応力度を超えることになります。この状態が起きないように断面設計をするのが原則です。一方、支圧応力度は、リベット構造で板に穴を空け、そこにリベット軸が当たるのが支圧の一つの現れ方です。断面の一部に圧縮応力を作用させたときの応力度です。その応力の作用断面は柱の表面ですが、断面の両側に余分の断面を持った柱になっています。そのため、支圧面に擬似的な三軸圧縮応力状態ができて、圧縮強度が高めに出ます。これを考えたのが許容支圧応力度です。コンクリート構造で支圧応力が作用する個所は、例えば橋脚や橋台に支承金具を載せて上部構造を支える状態があります。あまり過大な圧縮力が作用すると、金具の周で部分的に剪断破壊が起きますので、支圧の許容応力度は、圧縮の許容応力度の2〜3倍以下に抑えます。
科学書刊株式会社:電子版 「橋梁&都市 PROJECT: 2011」

前ページ 次ページ