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5. 弾性的性質の数学モデル

5.4 柱の座屈の現れ方


5.4.3 柱の弾性座屈が起こるメカニズム

 式(5.1)から次のことを帰納する(導く)ことができます。まず軸力が引張力であれば、初期撓みがあっても、それを減少させる作用があり、圧縮力は逆に増幅するように働きます。式の上からは、分母を0にする荷重のとき、横撓みが無限大になります。これが両端で単純に支持された柱の座屈荷重の理論値です。オイラー(Leonhard Euler;1707-1783)の座屈荷重とも言います。この式には材料の強度の性質が反映していなくて、材料は理論的に完全な弾性体を仮定することになりますので、弾性座屈と言います。材料力学で扱う場合には、荷重に代えて柱の平均軸応力度σと、部材断面の回転半径(4.2.8項参照)から派生的に定義された細長比(L/r)を使って、座屈応力度の式にします(応力度の符号は圧縮応力度を正として示します)。
   
 柱の弾性座屈現象は、1mの竹製、または30cmのプラスティック製の柔らかな物差しがあれば、教育目的に向く、安全で手近な実験ができます。スチールテープ製の巻尺も便利です。長い物差しは初期変形がありますので、図5.2の状態を実験できて、変形が圧縮力に比例して増加することを経験できます。スチールテープは、或る長さに引き出した部分は、薄いテープの横方向が孤状になって、一応の曲げ剛性を示す真っ直ぐな柱になります。これ、または短い物差しに圧縮力を加えていくと、或る瞬間に突然曲がります。そのときは、真っ直ぐな状態まで抵抗していた力が小さくなります。この実験の場合には力加減ができます。しかし、実際構造のモデルに錘を載せていく状態を作ると、曲げ変形に歯止めが掛かりませんので、危険な破壊を起こします。材料実験の話しは第9章でしますが、柱の座屈実験をするとき、安全に実験するための注意が必要です。材料試験機では、強制的に変位させるメカニズムを使って、結果的に柱に圧縮力を作用させます。座屈が起きると、変位が急に増加しますので、荷重の方が下がります。そこで実験を中止することができて、大きな変形に進む危険な状態を避けることができます。
科学書刊株式会社:電子版 「橋梁&都市 PROJECT: 2011」

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