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5. 弾性的性質の数学モデル

5.2 線形弾性として扱う便宜的な方法


5.2.3 割線弾性係数

 非線形の弾性的性質も持つ材料は、応力度を増やして行く途中の、変形の道筋が直線になりません。その途中を無視して、最初の0と最後の応力度と歪みとを直線で結んだ傾きで弾性係数を定義するとき、割線弾性係数(セカント弾性係数:Secant Modulus of Elasticity)と言います。長い弾性針金の変形は、ミクロの長さでは線形弾性の性質があっても、その累積である全体変形は非線形の性質です。この場合の部材としての剛度も、最初と最後だけに注目する線形化で扱うこともします。この扱いは、あらゆる数学的非線形問題を解くときの解決法として応用され、理屈を付けたいときは線形化理論などの名称が見られます。割線弾性係数は、コンクリート構造物の死荷重による応力と変形を計算するときに応用されています。コンクリートは、死荷重のような、持続的に作用している応力場では、歪みが時間的に増加していくクリープ現象が見られます。クリープによる歪みは、コンクリートの材令が若い時期から荷重が作用するほど大きく表れ、或る期間が経過すると止まります。クリープ歪みの大きさは、静弾性係数を考えたときの歪みの2ないし3倍になることがありますので、コンクリート橋では計画した路面の縦断勾配が変化することがあります。そのため、建設計画では、完成直後の形状と、クリープが終了した場合の形状との変形を計算しておく必要があります。ここに割線弾性係数の考えを使います。コンクリートのクリープ係数φは、クリープで生じる歪み分と弾性歪み分との比で与えます。コンクリートの計算では、ヤング率を使う代わりに鋼のヤング率との比としてnを使う習慣ですが、代わりにn’=(1+φ)nを使ってクリープ発現後の撓み計算をします。この弾性係数は、考え方としては割線弾性係数ですが、換算弾性係数(reduced modulus of elasticity)と言い換えることがあります(図5.1)。
科学書刊株式会社:電子版 「橋梁&都市 PROJECT: 2011」

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