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2. 簡単なトラスの応力と変形

2.1 静定トラス


2.1.1 トラスは鋼構造に用いられる

 トラス(truss)は、圧縮力または引張力だけを伝えるようにした、細長い真っ直ぐな部材を組み合わせて、構造物に組み上げるときの基本形です。幾何学的な構成は三角形を組み合わせます。古典的な建築構造は、柱を垂直に使い、水平に支える梁と組み合わせることを基本とします。斜めに部材を使うのは、屋根のような限られた個所であって、主部材を斜めに使いません。寺社建築がそうです。ギリシャの神殿構造に見るように、古代の巨大建築は、多柱構造です。トラスは、産業革命で大量の鉄鋼が利用できるようになったことと、鉄道橋のように、大きな重量を支える構造を工夫することから実用化が研究された構造形式です。トラスの組み方を言うときに、ハウトラスプラットトラスワーレントラスなどと言います。これは、組み方について特許を申請した人の名前に由ります。トラスの解析は、構造力学の方で主に扱いますが、基本的な知識については理解しておくことが必要です。トラスは、引張力を受ける部材があります。木材や石材は、大きな力を伝える引張り材としての使い方には向きません。鉄鋼材料であれば、信頼できる引張材に構成することができます。しかし、引張材を結合する格点の技術的構造を工夫しなければなりません。ここから材料力学の多くの課題が研究されるようになりました。最も単純な引張り部材は、リングを繋ぐ鎖構造です。チェーンは、部材両端に穴を空け、ピンを通して繋ぎ、自由に曲がる使い方ができます。自転車やオートバイの駆動部分に見られます。構造物に使う場合、古くは、両端を鍛造などで穴に加工してピン結合にしました。大きな変形を許す構造ではありませんが、理論的に曲げが伝わらないようにする目的を持たせます。長さが短い引張材は、両端に穴を空けた形が眼鏡のフレームと似ることから、アイバー(eye-bar)と言いました。古い鉄道橋にはこの形式の引張材を使ったピントラス橋がありました。しかし、格点を剛に結合しても支障がありません。ピントラス橋に構成すると、ピンの個所でかえって振動や騒音が問題になりますので、現在の鋼構造物ではピントラスを採用することはありません。ただし、力学原理を説明するとき、格点で自由に回転できて、曲げを持たせない直線部材であることを示す丸を描いて、ピン結合の仮定を示す説明図を使います。
科学書刊株式会社:電子版 「橋梁&都市 PROJECT: 2011」

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