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2. 論理演算

2.4 変数を二つ使う演算


2.4.8 対偶・対当・順・逆・裏の説明

 論理学では、似たような文であっても、その表現方法の違いを厳格に区別して、「正しい・誤り」の判断をします。一つの文を変形する方法は、否定表現です。二つの文を演算子で繋ぐ擬似的な演算では、左右を入れ換える変形があります。表2.2に説明した演算子で、対称と注記したものは、左右を入れ換えても結果は変りません。二つの文を対称な演算子で繋ぐ例が表2.6です。その中に、注(*3)式で表現したド・モルガンの法則があります。式違いで二ヶ所にあることに注意して下さい。

 一方、内含の演算は非対称です。否定文にすることと合わせて、8通りの言い換えの種類があります。演算式の表し方ではなく、文例を使った例を図2.2に対応関係として示します。その元にする例文を「良薬、口に苦し」としましょう。これは、薬と言う名詞を主語として、「良い・良くない」の二値の性質に分ける文と、「苦い・苦くない」の二値に分ける文との組み合わせ(論理演算)を考えます。正確な命題の文は、主語・述語を明確に言う「P:この薬は良い」「Q:この薬は苦い」の言い方を単位とします。下に示す図2.3では、これらの文を繰り返すとくどくなりますので、省略した言い方で書いてあります。P,Qから複合命題に演算させるとき、連言(かつ)と選言(または)で繋ぐ演算では、の並び順を換えても論旨は変りません。内含で繋ぐ複合文は、文の並び順を換えると、論旨も変ります。そこで、最初の基本とする言い方を、「良い薬は苦い」とし、これを「」とします。

 「PならばQである」(文記号A)と、「QならばPである」(文記号d)との関係は、互いに他のと言います。論理表を見れば解るように、逆は必ずしも同じにはなりません。「PならばQである」の論旨は、Pが真であるときのみ、文の真偽が正しい意味を持ちます。Pが偽であるときのことは何も言ってないのですが、真偽値は、常に眞(1)に設定されます。これを普通の文章表現では「ウソからでたマコト」と言うことがあって、実際の文章に使うときは虚偽の扱いとします(第1.3.27項「前件否定の誤りと後件肯定の誤り」参照)。

 否定形も組み合わせた二つの文関係の性質は「」、または「」の用語で区別する組み合わせがあります。文表現が変っても、本質的な論旨が変らない関係になる文の対を対偶と言います。対偶が成り立つことを規則にしたものを対偶律と言います。反対になる文の対を対当と言います。この議論は、二つの文単位の関係ではなく、実は文単位で勘定すると、八通りの言い換えの文から四つの文をとりだして、その組み合わせを扱っています。変数を三つ以上扱う論理式は次節の第2.5節で、改めて取り上げます。

図2.3 否定文と組み合わせた内含の相互関係:左が図式、右が「良薬、口に苦し」の文例

 
(A)  P⇒Q

 
←逆→

 
(a)  Q⇒P

 

逆(裏)

対偶

逆(裏)

 

(D) 

←逆→

(d) 

 

良い薬ならば
苦い

←逆→

苦いならば
良い薬である

 

逆(裏)

対偶

逆(裏)

 

良くない薬ならば
苦くない

←逆→

苦くないならば
良い薬ではない

備考:左右の式の位置関係を相互に逆、上下の場合には裏とも言う。対角線同士の関係が対偶です。

 
(B) P⇒

 
←逆→

 
(b) ⇒P

 

対当

 

(C)   ⇒Q

←逆→

(c)   Q⇒

 

良い薬ならば
苦くない

←逆→

苦くないならば
良い薬である

 

対当

 

良くない薬ならば
苦くない

←逆→

苦いならば
良くない薬である

備考:左右及び上下の式の位置関係を相互に逆、対角線同士の関係が対当です。
科学書刊株式会社:電子版 「橋梁&都市 PROJECT: 2012」

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