目次ページ; 前のページ; 次のページ

4. 図・表・式・記号など

 レポートは、文章の部分以外に図形情報が使われます。活字も広い意味では図形ですが、今までの習慣から、タイプライタで作成できないものを図形と呼びます。これには次のものをさします。
a) 図
b) 表
c) 数式、物理・化学式
d) 符号・記号・略記法など

4.1 図

 この言葉は、グラフ(graph)、線図(line drawings)、写真(photograph)、などを総称して使います。レポート中では、これらをすべて「図」figuresと呼び、graph, plate, map などの言葉を使いません。

 図は技術レポートの構成において非常に重要です。このため、図の作成に当って種々の基準が作られています。基本的な考え方は、できるだけ単純化して理解しやすく作ることです。

 著者自身の作成によらない図は、原作者の著作権を尊重し、謝辞などにそのことを記すなどを忘れてはなりません。また、版権の扱いなど、法律的な手続きが必要になることがありますから、取り扱いの方法を研究しておく必要があります。

 図または表の番号は、総てを通した一連番号か、各章ごとに一連番号を振ります。後者の場合、章番号にハイフンをつけて、例えば、 Figure 4-3 のようにします。

 図および表には必ず見出し(caption) を付けます。その位置は、図は図の下の位置に置き、表は上の位置とし、判りやすい説明をつけるようにします。できれば、本文を読まなくても、図・表それだけで独立に理解できるように書き方にも注意深さが大切です。また、図ならびに表のリストを目次に含めておくのは親切です。

 図および表は、本文で最初に引用された直後の場所に挿入するのが良く、できれば同ページに置きます。従って、本文中で引用されない図・表は、本文を構成するページに含ませるべきではなく、付録の扱いをしなければなりません。もし図・表の占める面積が文章に比べて大きい比率になるときは、図・表をひとまとめにして各章や本文の最後に置くのも一つの方法です。このとき、本文中で図・表を引用するとき、図・表の置かれているページ番号も書いておくと良いでしょう。

 電子複写、マイクロフイルム撮影、ファクシミリによる電送などを考えるとき、カラーを使う図・表は、色調の区別がつき難くなりますから、できれば避けます。もし、どうしても色の使用が避けられないときは、白黒に複写されても色の相違が別の方法で区別できるような、例えば、実線・破線・一点鎖線などを併用する、などの工夫が必要です。

 コピーするときにも困りますが、マイクロフイルムにしたレポートを読むことを考えて、折り込みの図・表などのように、用紙寸法がレポート寸法と異なるものは避けるようにします。また、図・表の向きが本文の向きと異なるのも、同じ理由で良くありません。

4.2 グラフ

 グラフとは、円(パイ)グラフ、棒グラフ、折れ線グラフなどと分類される図を云います。基本的に、何かの量を縦、横座標などを使って表現するものですので、数量とその単位を示すラベルが必要です。記号や略号は本文中と同じものを用い、できるだけ JIS や学会などで標準化されているものを採用するようにします。グラフは、見た目に理解し易いように省略や強調が必要ですので、正確な値が必要であれば別に表で補うなどの工夫をします。ハッチングや、線の種類を変えて、グラフィックスとして綺麗に仕上げることは良いことですが、あくまでも表現したい数量相互の関係を理解させる目的を忘れてはなりません。

4.3 線図

 装置の説明、地形などを示すとき、写真よりも線図、つまり製図された図面を使う方が勝ります。それも、本文中で言及している箇所に重点を置き、欲張って書き込みが多くなり過ぎないように気をつけます。もし図が混雑するようであれば、ラベルや記号で置き換えたり、ハッチングを適当に使うなどの工夫が望まれます。

 対象物の寸法を表すものは必ず必要ですが、コピーを利用することを考えますと、1:200 などの尺度表示は使えません。地図を用いるときは、同時に方位などの地形情報が判るようにしておきます。

4.4 写真

 止むを得ず写真を使うときは、コントラストのはっきりした白黒写真とします。ハーフトーンや、カラー写真の中間色は、真っ黒になるか、白く抜けるかのどちらかになり易いので、上に述べた様に線図に書き直すことが推奨されるのです。

 写真を印刷物に使うときは、いわゆる網掛けという操作で、細かな点の集合に変換した図版に直して使います。目が細かすぎても、粗すぎても仕上がりの質が元の写真より低下します。写真がどのように変質するかを確かめる一つの方法は、電子複写機でコピーを撮ってみることです。コピーのそのまたコピーを取ると、もっとひどくなります。従って、印刷用原稿に写真を使うならば、オリジナルの質の良い写真を用意するべきでして、電子複写のコピーを代用してはなりません。

 写真は、その中に文字やラベルを貼りこんだり、矢印などを書き込んだり、必要があればコントラストを上げるため修正したりして、対象物がはっきりするように手を加えることも必要になります。写真は、フィルムをそのまま引き伸ばすのでなく、不必要な部分をカットし、対象物が写真の中央に来るようにトリミングします。さらに、その写真がレポートの中で使われるときの寸法を指定して、編集の担当者に依頼します。

4.5 表

 表は、数字などのデータを縦または横の欄を使って並べたもので、判りやすくするため適度の間隔をあけるか、適当に罫線を引いてグループ分けして表します。表の見出し(heading) には、示したデータがなんであるかが判る簡単な記号、単位が必要です。

 表は、それが本文で引用されている範囲を単位としてまとめるのが良く、別の箇所で引用するものは、できるだけ別の表にまとめます。本文で言及しないものを表に含めるべきではありません。重要なデータで、参考資料として必要なものは、付録に回すか、レポートの発行機関が責任をもってデータを保存する方法を講じ、その所在や問い合わせ先をレポートに書いておきます。

4.6 数式類

 基本的に、数式などを書くときは、注意深く何度も検査して誤りのないようにしなければなりません。量、単位の記号とその数値などは、JIS Z 8302(量記号、単位記号及び化学記号)並びにその関連規格 ISO 31(Parts 0 to 13) を参照するようにします。特に、数式の中で数字がでてくるとき、単位の取り方を明記することが必要です。例えばt/cm, t/m, kg/cm のどれを採るかで数値の小数点位置が変わります。m/sec, km/h などでは、値が全く異なってしまいます。

 数式などを表すとき、自分勝手な方法を避け、一般の習慣に従うべきです。従って、タイプライタの活字をそのまま使って式を書くよりも、丁寧な手書き製図の方が勝ります。しかし、最近は種々の活字の使えるタイプライタやワードプロセサが出回ってきましたので、便利になってきました。

 しかし、次ぎの事柄には注意します。それは、数式の中の英字記号には斜体(italic)を良く使います。これは文章の活字と数式の変数とを区別する一般的な方法ですが、これが時には混乱の元になります。例えば、ISO 5996に載っている例では、斜体のを電気容量に使おうとするとき、直立体のCが SI 単位のクーロンとしても用いるのであれば、この活字の字体が区別できない限り同じレポートの中で共用してはならない、としています。斜体が使えないならば、前者を小文字のcで代用するか、Cp などで表すなどの工夫を考えます。

 活字の字体が似ていて、誤って理解されやすいものが下の例に示すように幾つか考えられますから、記号や文字の選択には格別の注意深さが大切です。数字の0(zero)を英字のO(oh)から区別するため、斜線をつけた0が推奨されますが、デンマ−ク語のアルファベットにありますし、ギリシャ語のφもあるので、使うときに注意が肝要です。

 I(upper case), l(lower case), 1(numeric)
 O(upper case), o(lower case), 0(numeric)
 S(upper case), s(lower case), 5(numeric)
 C, c, K, k, O, o(大文字と小文字が相似である)
 K, k(英字), κ(ギリシャ文字カッパー)
 −(ハイフン、ダッシュ), _(アンダースコア)

 ベクトル記号は、太字の活字を使う習慣ですが、もしなければ手書きとするか、矢印を書き足した記号を使います。

 分数記号は行を余分にとりますから、できれば斜線(/)を使って一行に式をまとめる様にします。さらに、1/√2などは 2-1/2の形も考えられます。

 数字の書き方は、三ケタづつまとめ間を少しあけます。1より小さい小数を書くとき、1の位取りの0を必ず書きます( 0.67 の代わりに .67 と書きません)。なお、小数点記号は点ですが、フランスではコンマを使いますし、ISO もそれを認めています。このため、三ケタづつ数字を区切るとき、コンマで区切らない様にします。

 数式で使われる括弧は、()丸括弧、[]角括弧、{} 波括弧(英語でparentheses, brackets, braces と云います)の順に使い分けて、見易い表現にします。特に分数や、マトリックスのように数行にまたがる表現のとき、括弧の高さは、その及ぶ範囲まで伸ばします。

 式は本文の左マ−ジン(左端)から幾分さげて書き出し(indentと云います)、天地も本文と区別できるスペースを空けます。

式が長すぎて一行に納まらないときは、式の切れ目は、(=)の前、(+、−、・、×、/)などの加減乗除記号の後が良く、式が次の行に続いていることが判るようにします。

 また、切ってはならないのは、分数の母線、ルート記号の及ぶ範囲、一対の括弧でくくられた部分、分数の分母または分子を表している式などです。数字の中断はもちろんいけません。なお、分数の母線の長さは、分母、分子どちらか長いほうに合わせ、線を省略してはなりません。

 式の数が多ければ、式には式番号をつけ、それを括弧して行の右端につけます。この数字に使う活字は、式に使われている活字の字体と変えるのが良く、もしそうでなければ(Eq.2) などの書き方を使います。文章の中で式を引用するときもこの方法に従います。例:

活字が同じときは、例えば次の様にします。

4.7 量・単位記号

 単位についての規格は、JISZ 8203-1985:「国際単位系(SI)及びその使い方」を尊重するようにします。単位やその記号については専門毎に長い習慣がありますので、すべてSI 単位で表現することに抵抗があることも現実にあります。JIS では、段階をつけて SI 単位と併用して使ってもよい単位系があります。しかし、これにも限度がありますので、具体的には次のようにします。

 基本的には、総てSI 単位に換算して表します。しかし換算することで数値間の精度のバランスが崩れる、などの不都合があるとき、重要な数値だけに限定してSI 単位に換算した値を括弧書きで付けるようにします。特に、歴史的な背景のある数値まで、やみくもに換算する必要はないでしょう。しかし、抄録のなかで引用する場合には、必ずSI 単位を使わなければなりません。


前のページ; 次のページ