1. 鉄筋コンクリート矩形梁の計算式

1.1 計算の種類

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 鉄筋コンクリート矩形梁の断面設計とは、設計条件として曲げモーメントM・軸力N・剪断力Sが与えられ、コンクリートと鉄筋の許容応力を満たすように、梁の幅b・高さh・鉄筋量Asなどを決めることです。公文書としてまとめる計算書は、試行設計の過程を省き、採用寸法が既に求められていて、その断面について応力度の計算を示して安全の確認をするスタイルを取ります。しかし、初心者が設計したい場合を考えて、0から断面の計画を進める方法も理解しておかないと応用が利きません。これを予備計算と呼ぶことにします。設計条件を幾つか試して、採用する断面寸法に絞り込んで行きます。この過程が典型的な試行修正(trial and correction)です。コンピュータを利用する場合には会話型処理のプログラミングが便利です。この計算の場合、幾つかの予備的な単鉄筋矩形梁の計算をして断面のあらましを求めます。これは下の表に分類するような計算種類で考えます。

表3 基本設計計算のデータ入力条件の分類

 

s

s'

説     明

(1)

 

 

×

標準的な単鉄筋矩形梁としてsとを計算

(2)

 

 

×

標準的な単鉄筋矩形梁としてsとを計算

(3)

 

 

×

デフォルト値として=100を代入し、(1)と同じ

(4)

 

 

×

抵抗モーメント0sを計算(全強といいます)

(5-1)

 

×

(4)の計算をして、0>の場合(単鉄筋の設計)

(5-2)

 

 

(4)の計算をして、0<の場合(複鉄筋の設計)

(6)

 

 

×

単鉄筋としてσcaとσsaを満たす00を求める

(7)

 

 

×

単鉄筋として抵抗モーメント0を計算

(8)

 

 

×

単鉄筋として抵抗モーメント0を計算

(9-1)

 

 

(6)の計算をして0<の場合、σsを計算

(9-2)

 

 

(6)の計算をして0>の場合、σcを計算

 

 

 

 

 

 

上記の何れにも該当しない場合は条件不足です。

備考:
・設計の目標は(5-1)、または(5-2)にあって、鉄筋断面積を求めることにあります。
・コンクリートと鉄筋の許容応力度σcaとσsaとは必須の入力データです。
・◎印はデータ入力をする、×は計算しない、無印は計算で求める、の意味です。
・高さは、鉄筋のカブリを加算した値です。計算には有効高さを使います。

 上記の予備計算でb、hなどを求めると、寸法数値に端数が付いた計算結果が得られます。そのため、これをcm単位に丸めた値に設定し直します。寸法の大きな断面では5cmまたは10cm単位で丸めた寸法が採用されます。鉄筋の位置は有効高さdおよびd' で扱います。これらの値は、実際の梁の高さhから鉄筋径を勘案した仮のカブリ値を減算した値です。版の場合、主鉄筋が最外側に来て、その内側に配力筋を置きます。桁の場合にはスターラップが主鉄筋を囲みますので、スターラップの鉄筋径を加えた分だけ仮のカブリ値を大きく仮定します。

 鉄筋の配置に関しては、構造細目と呼ばれる幾つかの規定[2]を満たす必要があります。カブリやアキなどの寸法は、鉄筋表面から測る寸法ですが、便宜的に、断面の計算には鉄筋断面の中心位置を使います。そのため、採用する鉄筋を決めた後で、鉄筋径に合わせて鉄筋位置を調整しなければなりません。そして、その鉄筋で決まる断面積を、応力計算の入力に引渡します。設計図面の作成段階では、コンクリート構造細目に詳しい製図者にデータを渡して、計算上必要な鉄筋配置の他に用心鉄筋などを追加してもらいます。使用する鉄筋径が決まった後で、このカブリ値を補正します。そして、この条件で再度所要鉄筋量の精算をします。

 ここまでの計算で求めた所要鉄筋量は理論値です。実際に使用できる鉄筋材料は鉄筋径が飛び飛びの寸法です。したがって、理論計算値に近くなるように鉄筋径、本数、間隔(ピッチ)を提案する必要があります。鉄筋は、D16などのような呼び径で呼ばれますが、実径とは少し異なるのが普通ですし、実際の断面積も必ずしも呼び径を基に計算した値ではありませんので、カタログ数値を参照します。


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