0.1 コンクリートの強さ

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 コンクリートの破壊現象は、引張りまたは剪断(ずれ)で起こります。コンクリートの品質は、標準の円柱試験体を使った圧縮試験の強度で表わし、これを慣用的に圧縮強度と言います。実際の強度の現れ方は、試験体の形状・寸法・荷重状態など、三次元的な応力状態で変わります。地中深くの岩盤のように、三方向から水圧状の圧縮を受ける場合には、実用的には殆ど破壊が起きませんので、単純に圧縮強度と言う言葉は、時に誤解を与えます。そのため、正確に定義するときは、基準圧縮強度と言います。コンクリート部材は、なるべく三軸圧縮状態で使うように工夫します。それを実現させる一般的な構造は、鉄筋を篭状に組み上げて、コンクリートを中に包み込むようにします。鉄筋の腐食を防止するためにカブリ分で覆います。丈夫な袋に強度的に信頼が無い砂や土を入れた枕のような形状の土嚢でも、かなりの圧縮耐荷力を示しますので、コンクリート構造物の構造設計は、この性質が期待できるように鉄筋を組み上げます。この場合、計算で必要とする鉄筋以外に多くの用心鉄筋などを配置する必要があります。コンクリート示方書にある細部設計規準の多くは、この考え方を集約したものです。

 コンクリートを鉄筋で補強する考え方は合理的なのですが、厚みのあるコンクリート(マスコンクリートと言います)で表面に近いところだけに配筋を集中させるだけでなく、断面の形状を保つような断面内の補強が必要です。これは設計計算で扱うことはあまりなくて、構造細則などで対処しています。例えば、コンクリートを打ち込むときはコンクリートが流体のような性質を持ちますので、型枠を押し広げるような応力が発生します。螺旋鉄筋柱の設計法は、桶のタガのような応力に抵抗するように考えられたものです。

 コンクリート梁は、曲げを受けると部分的に引張り応力が作用しますが、引張りには強度がないと仮定し、引張応力を鉄筋で持たせる力学モデルを設計計算に採用します。このモデルは、梁が曲げで破壊するような状態になると具現しますが、設計荷重の範囲ではコンクリートの引張り側に目立った亀裂が発生することもなく、コンクリートの全断面で曲げに抵抗することが確かめられています。コンクリートに引張強度が全く無いと仮定したモデルで設計すると、亀裂が発生しても問題が起こらないと考える誤解があります。そうなると、理論の上からはコンクリートも砂と同じように内部摩擦を持った材料と同じになります。亀裂が発生すると、その面で剪断強度も、また、鉄筋とコンクリートとの付着強度も期待できませんので、そもそも梁としての部材が成り立たないのです。


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