0章 最初に理解しておくこと

0.1 設計とは何かということ

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 工業製品の設計という知的作業をわかりやすく説明すると、設計は、まだ現実に存在していない立体的な形状を頭の中で想像し、それを具体的な図面に描くことです。別の人は、その図面を見て設計者と同じ形を理解し、製作に当たります。図面は、設計者から製作者に情報を伝える役目を持っています。したがって、設計は必ず製図を伴います。そのため、設計・製図には共通の約束が必要になりますので工業教育においては製図法が必修科目となっていました。一方、芸術作品を創作する芸術家は、他人との共同作業をあまりしないので、特に設計図を作らないで、いきなり対象物の制作に当たることが多くなります。実際に図面を手で描くとなると、上手下手に個人差がありますし、製図法に専門の約束がありますので、コンピュータの助けを借りて図面をきれいに描かせる方法が研究されました。これにコンピュータ支援設計(CAD: Computer Aided Design) の用語が使われるようになりました。CADの名前のついたコンピュータソフトウェアが、同時に、コンピュータグラフィックスの道具でもあるのは、設計と製図とが切り離せない関係にあるからです。

 CADの用語が使われる以前、この分野を自動製図、自動作図のように呼びました。これには、製図用のペンをコンピュータで制御するプロッターなどの装置を使いました。コンピュータに図面を描かせる場合、図形のデータは設計者が準備しなければなりません。一方、工場では、図面に描かれた寸法などのデータを見て工作機械を扱うのですが、機械をコンピュータで制御する方法がプロッタを制御することと原理的に同じですので、これを数値制御(Numerical Control; NC制御)の工作機械と呼びました。この制御は、CADとデータを共有するように合理化が研究され、コンピュータ支援製作(CAM:Computer Aided Manufacturing) の用語が使われるようになりました。特に、CAMはCADと密接に関連を持たせながら研究しなければなりませんので、CAD/CAMのようにセットで呼ばれるようになりました。幾何モデリングはこれらを支える基本的な技術となっています。

 CAD/CAMの技術に関連して、設計・製図法にも、今までの製図法に加えて、新しい考え方が必要になりました。それは、設計者の頭の中に組み立てられたアイディアを、どのようにしてコンピュータに伝えればよいか、ということです。この問題は、マン・マシン・インターフェース(man-machin interface)という概念でとらえられています。CADのコンピュータプログラムを作ること、そのとき、ユーザーが使いやすいように工夫すること(user friendly) もこの問題の範囲に含まれます。幾何モデリングは、設計者が頭の中で思いつく幾何学的な形状を、コンピュータに伝えるためのインターフェースです。そうは言っても、CADのソフトウェアがあれば、誰でも簡単に設計ができるというものではありません。

 設計では、物の形状をどのように構成して組み上げるかのアイディアが必要です。幾何モデリングでは、このアイディアと共に、道具としてのソフトウェアを使いこなす訓練が必要です。この「幾何モデリングの演習」のマニュアルは、GEOMAPのパッケージを使って、幾つかの幾何学的形状の制作をコンピュータグラフィックスで体験するように組み立てられています。以下の章では、例題のプログラムを示して、GEOMAP内部でどのような処理が行なわれるかを説明します。

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