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7. コンピュータグラフィックスの基礎

7.5 しきい値と言う概念


7.5.1 数値計算は技術であること

 初等幾何学は図形の性質を扱う学問ですので、数学の一分野とは言っても、数を扱う場面は限られています。座標幾何学は、積極的に座標値も使って図形の性質を扱います。そうすると、無理数も扱わなくてはなりません。正方形の対角線が辺の√2になるのが、一つの例です。実際問題として、有限桁数の数値並びで理論的に正確な寸法を表すことができませんので、何かの妥協をしなければなりません。純粋理論を扱うときは、この妥協を嫌います。円周率の数値を言う場合の議論がそうです。円周率を3.14と覚えるのが正しい常識である、と思い込むと、円周率を3として覚えさせるのは間違いである、と怒る始末です。数を具体的に扱うのは学問の応用です。数値計算法は、大学では理学ではなく、工学の方で主に研究されます。何かの数を使い易い桁数に丸めるとき、これを呼び数または名目数(nominal number)と言います。この丸めは、学問からさらに世俗化した手段ですので、技術と関連します。丸めた数値は大雑把ですが、その数値で表す性質を代表しますので、それを解釈する場合にも、それなりの常識を必要とします。技術の分野では、丸めを含め、数の解釈方法が幾つもあります。逆説的に言えば、数の扱い方を見ると、学問や技術の経験レベルが分かります。
2008.7 橋梁&都市PROJECT

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