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2 石造のアーチ橋について

2.2 .高度な経験技術が必要であった


 図2.1 長崎の眼鏡橋(WIKIPEDIAより)
 長崎の眼鏡橋のような、典型的な石積みアーチ形式を、ブーソーアーチ(仏語)と言います。鉄筋コンクリートや鋼材料を使ったアーチ構造の、設計から架設までの技術に、力学原理を応用するようになったのは、20世紀からです。それまでは、職業集団としての大工や石工が経験的な技術として石積みアーチ橋を架けました。そのノウハウの一つは、アーチ円弧の幾何学的形状を決めるときの、円周率の知識でした。通常、荷物を積んだ、重量のある馬車も通れる実用的な橋は、主に木材を使った桁橋て架設されました。石の桁橋は頑丈で長持ちしますが、せいぜい一間(1.8 m)程度の短い支間にしか利用できません。ばらの切り石を積み上げてアーチ形式の橋を架ける準備工事に、半円形の足場(セントル)を組み上げます。そこに、大工さんが参画します。橋の下側から仮の足場を組み上げることができない深い谷間で、やや支間の長い(10〜20 m)の空間に石のアーチ橋を架けるには、木組みで半円形の床組みを持った足場用の橋を架設し、両岸から切り石をリング状に順に積み上げます。最後にアーチの頂部に要石(かなめいし)を落とし込んで、アーチリングを完成させます。このまままでは曲げに弱いので、路面とアーチリングの隙間(スパンドレル)を補強する材料(普通は切り石)で埋めます。これを充腹アーチと言います。窓のような隙間を残したままの構造形式がオープンアーチです。完成形になった状態で、足場を外します。この架設工事の全体は、日本では中国から学びました。世界遺産として認定されたボスニアのモスタル橋は、1566〜7年に架けられた長さ30 mのアーチ橋でした。1993年に内戦で破壊され、2003年に元の形状で復元されました。創架のとき、足場をどのように組み上げたかは分かっていません。再建のときは、鋼の仮橋を架けてセントルを支えました。
科学書刊株式会社:電子版 「橋梁&都市 PROJECT: 2016」

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