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15. アーチ橋の計算(続)

15.1 吊橋の計算との相違


15.1.1 線形理論か非線形理論か

 吊橋とアーチ橋が構造力学的に似ていることは、どちらも、放物線の形状の部材が、連続橋とみなせる小径間の床桁部を支え、全体橋梁として長い支間を構成していることです。吊橋ではケーブルが、アーチ橋ではアーチリブが放物線部材です。解析上の特徴は、ケーブルまたはアーチリブの水平反力を不静定力にしていて、この不静定力が水平な床桁部分を上に押し上げるように機能することで、曲げ応力を小さくしていることです。実用する橋梁では、大きな移動荷重が通行しても交通に支障がないように、適度な曲げ剛性が必要です。吊橋のケーブルは曲げ剛性がありませんので、補剛桁、または補剛トラスを使うのが標準の構造です。しかし、小支間の歩道専用の吊橋では、力学的に言う無補剛吊橋も実用されます。長大吊橋では、通路を構成する補剛トラスの曲げ剛性が全体として見れば小さくなりますので、無補剛吊橋の性質が出てきます。したがって、解析理論として、非線形の撓度理論(deflection theory)を使うのが標準です。吊橋解析の出発は、完成状態で、ケーブルですべての死荷重を持たせ、補剛桁または補剛トラスの死荷重応力を0とすることです。アーチ橋の場合、無補剛構造はあり得ません。死荷重は、全体系として持たせ、微小変形を仮定した線形の弾性理論で計算します。完成状態で、死荷重による応力の分布をどのようにするかの応力調整を計画しなければならないことが、実際の設計実務では重要な課題です。活荷重による応力と変形の性質も、死荷重応力がどのようになっているかには関係なく、線形の弾性理論で計算します。ただし、死荷重による撓みを見積らないと、完成系での所定の幾何学的形状が得られません。活荷重による撓みの大きさを含め、通常は大きな撓みが出ないように設計します。非線形の変形理論、もしくは大変形理論を応用する必要性はありません。
2010.11 橋梁&都市PROJECT

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