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10. 小径間吊橋の計算

10.1 小径間吊橋の解説


10.1.1 無補剛吊橋は昔からあること

図10.1 広重名所図会の籠渡し(部分)

図10.3黒部渓谷の吊橋
 日本の山間部は谷が深い地形が多いので、生活道路として簡易な吊橋(以前は釣橋と使いました)が各地に見られます。原始的な吊橋として、植物のかずら(葛)を使って架けられた徳島県祖谷(いや)のかずら橋が有名になりました。現在は、一種の観光資源として、外見を似せていますが、ワイヤロープを使っています。兎に角、谷を渡すにはケーブル一本を手掛かりにします。このために、通路幅を持たせることができませんので、籠を吊り下げる籠渡しがあり、名所浮世絵にもあります(図10.1)。北斎の名所図絵に、当時としては有名であった歩道吊橋を描いたものがあります(図10.2)。橋梁工学的に見れば幾らか不合理な構造図ですが、典型的な無補剛吊橋の変形を描いています。近代の歩道専用の吊橋は、放物線のケーブルに眼が行きます。実は、歩道を真っ直ぐに構成するケーブルにも大きな引張力を持たせていることで、橋として実用になるのです。現存しているかは不明ですが、郵便切手の図柄に採用された黒部渓谷、欅平の奥鐘の吊橋が一例です(図10.3)。歩道専用の吊橋は、その地域の観光ランドマークになる場合があります。上高地にある河童橋(初架橋1891)が一例です。これらの簡易吊橋は、橋梁工学の知見が無くても、地元の鍛冶屋や大工などの技術集団が工夫して架設しました。

図10.2 葛飾北斎の名所図絵から

2010.1 橋梁&都市PROJECT

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