標準的な橋の設計計算書を作成する

エクセルSoft

著者 : エクセルSoft開発グループ

掲載誌 : 橋梁&都市 PROJECT

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0. はじめに
 橋は、我々の社会生活空間の中で、非常に身近な構造物です。そのこともあって、日本では「橋」の付いた固有名詞、つまり人名や地名が非常に多いことは、電話帳や住所録をめくって見れば分かります。しかし、ほんの2m(昔風に言えば約1間)の幅を渡すとしても、実用的な通路としての丈夫さを持たせる構造を建設するとなると、素人工事では手に余ります。まして、重量自動車の行き交う道路橋や、重量の大きい列車を通す鉄道橋では、力学原理を踏まえなければ安全な橋の設計も建設もできません。橋は、住宅に次いで建設需要が身近に多い公共構造物ですので、例えば、村役場の土木課の職員でも理解できる程度に大衆化した、設計法と建設法も必要です。橋梁は、見かけは単純な構造に見えても、しっかりと力学原理を踏まえなければなりませんので、古代から、専門家集団が橋の建設に携わってきました。明治以降、工学的に設計法と製作・架設法が研究され、戦後は、多くの橋梁が建設されてきました。その蓄積で、現在では橋長が15m以上の橋梁が、全国で約15万箇所、2m以上を含めると67万箇所近く供用されています。桁単位の積算数は分かりませんが、一説では300万橋あると言われています。

 橋の寿命については、従来、ほとんど意識することがありませんでした。このことは、かつて主流であった木橋を、鋼橋やコンクリート橋に架け替えるときも含め、永久橋を建設したと勘違いをして、維持管理や補修のことを重要と考えなかったことも一つの原因でした。ところが、モータリゼーションが高度化してきた近年になって、橋梁の疲労と老朽化が顕在化するようになってきました。そこで、安全性を確認する検査方法と補修方法の提案が必要になってきました。その検査方法は、二つの柱から構成します。一つは、対象とする橋梁の実情を現場で調べることです。これには「振動測定による構造物の診断システム」を提案します。もう一つは、建設当時の設計法で計算書を再現し、自重と曲げ剛性の見積もりと、現在の荷重体系との比較で耐荷力の確認をする再現設計のコンピュータプログラムの提案です。この二つの柱があって、初めて、補修前後の補強効果を確実に比較できます。このプログラミングツールは、MS-EXCEL(エクセル)を利用しますので、「エクセルSoft」と呼ぶことにしました。

 科学技術計算に使うソフトウエアの作成は、事務処理に応用するソフトウエアとは少し違うプログラミング言語を使う必要がありました。パソコンの利用が大衆化しましたし、その中でもEXCELが数値計算の道具として便利になりましたので、一般向けにはEXCELを使う設計計算用ソフトを薦めたいと思います。その使い方、つまり、ユーザインタフェースは、橋梁工学の専門に詳しくない人でも、作業ができるようにすることを目的として編集しました。しかし、ユーザーズマニュアル通りの作業なら小学生でも可能でしょうが、公共に利用する橋の安全を確認する作業ですので、橋梁工学の常識が必要です。エクセルSoftの理解には、丁寧な説明が欠かせません。この分量は相当に大きくなりますので、連載形式で公表することにしました。次章から、トラス橋の解説から始めます。橋梁設計の拠り所をまとめた設計示方書は、時代と共に改訂を繰り返してきました。古い橋梁の調査ではその当時の示方書に基づく計算方法の理解が必要です。平成14年の改訂で大きく変更されたことは、力の表示方法にニュートン単位系を採用するようになったことです。これは時代の流れですが、やや学問的に過ぎるところがありますので、旧来の示方書で採用していた重量単位に換算した計算法との二本立てで構成することにしました。

 エクセルSoftの目的は、モニタ上で計算確認を済ませ、書式を整えた計算書の印刷出力にあります。計算書は、或る程度、定型的なスタイルがあります。これをテンプレートプログラムにまとめておいて、必要な個所にデータを入力して埋めて完成するようにします。そうしておけば、データを差し替えることで設計の比較が簡単にできます。このテンプレートを使うユーザは、橋梁工学の素養が欠かせません。また、このテンプレートを応用して印刷される成果品は、技術コンサルタントとしての対価の対象です。したがって、「エクセルソフト」は、このテンプレートをシェアウェアとしたものと理解するとよいでしょう。著作権を持ちますし、バージョン改訂などの情報をインターネットで配布する上でも、ユーザ登録の形式を採りたいと思います。
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