欧米では、古くから言語学(linguistics)の研究がありました。言語考古学の研究が進む以前、旧約聖書は、文字記録文書として最も古いと思われていました。新訳聖書のヨハネ伝には、「始めに言葉ありき、言葉は神なりき」の邦訳が知られています。言葉が不思議な力を持つことを言います。日本語にも言霊(ことだま)の用語があります。どちらも、言葉を大切に扱うことを教えています。言語学が取り上げる課題の中で、言語考古学は、古い記録として残された文字並び(書き言葉)の意味を解読することを課題としています。ジャン=フランソワ・シャンポリオン(Jean- François Champollion、1790 - 1832)が手掛けたエジプトの神聖文字(ヒエログリフ)の解読研究がとりわけ有名です。ただし、どのように発声していたかは判らないのが普通です。音声を記録し、再現する装置が開発されたのは19世紀の半ばからですので、それまでは話し言葉の方の研究は殆んどできませんでした。書き言葉(文字)と話し言葉(発声)とは、相互にデータ変換で関連付けられれば便利ですが、実情はそうなりません。20世紀に入って言語学は大きな変動期を迎えました。「書き言葉」の研究から「話し言葉の」研究へと論点が変わってきました。その主導的な役割を果たしたのが、「近代言語学の父」と言われたスイスの言語学者、フェルディナン・ド・ソシュール(Ferdinand de Saussure、1857 - 1913)です。ソシュールは、言語(language ランガージ)を、ラング(langue;文字)とパロール(parole;発声)という二つの面があると定義しました。ソシュールに刺激を受けて、アメリカの言語学者レナード・ブルームフィールド (Leonard Bloomfield, 1887 - 1949)は、1930年代から1950年代にかけてアメリカの 構造言語学(structural linguistics)の枠組みを確立しました。1957年、ノーム・チョムスキー(Avram Noam Chomsky、1928 - )は、生成文法(generative grammar)を提唱して「現代言語学の父」ともてはやされ、言語学界を風靡しました。 |