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9. 材料の破壊と部材の破壊

9.1 材料試験の計画と結果の見方


9.1.4 ニュートン単位系への移行による混乱

 理論的に言うと、力は、質量×加速度の単位を持ちます。力は、重力に換算すると理解し易いので、万能試験機の秤量表示を重量単位(kgf, tfなど)とするのが普通でした。アムスラー式の試験機は、てこの原理で錘の重量を制御して荷重と釣り合わせる計測法を採用しますので、重量単位の計測機です。土木・建築構造物の強度計算では、荷重が殆ど重量ですので特に問題としません。しかし、厳密に考えると、重力の加速度は場所によって変り、地域差で最大約0.5%の誤差を含みます。空気の浮力も考えると、高度や気圧によっても重量は変ります。試験機の秤量表示をニュートン単位にすることは理論の立場からは合理的です。しかし、構造物の実務的な設計現場では、重力加速度の変動を考えに入れるほどの精密さを必要としません。理論的な意義は認めても、材料の計量(例えば、こちらは質量kg)を重量計算(kgfは重量単位の意)に応用するときに、わざわざニュートン単位に変換することは煩わしいのです。このことに関しては、学識経験者の論理を採用して設計基準を制定する学会の責任は大きいと言えるでしょう。実践的な扱いは、呼び数(nominal number)と名目的な単位名を使うことです。英語では物質名詞の計量に、例えば「a cup of water」の言い方があります。これは、コップを計量単位にした言い方です。日本在来の計量単位の尺貫法や、英米のフィートポンド法も、物質名詞の計量単位と解釈して使うのが実用単位として使い易いと筆者は考えています。ただし、学術論文の中では、数量的な大小比較をするとき、理論的な根拠に基づく単位系を使う必要性があります。
科学書刊株式会社:電子版 「橋梁&都市 PROJECT: 2011」

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