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5. 弾性的性質の数学モデル

5.3 線形弾性体として扱う柱と梁


5.3.5 学問的知見と実務的な応用

 材料力学では、材料を均質な連続体と仮定します。実際の材料が、上に挙げた三つの理論モデルからどれだけずれるか、このことを数学的に取り上げるのは学問的な興味からの研究です。これに取り組むと、材料をミクロに扱う方向に視点が向きます。しかし、例えば、コンクリート材料は、砂利や砂の寸法までミクロに観察するところで均質な仮定が破綻します。鋼材は、顕微鏡レベルで結晶構成の不連続が観察されます。したがって、例えば、(1)力と変形との関係がフックの法則から逸れることの研究結果があるとしても、設計モデルに応用するときは、単純化した線形モデルを使うのが勝ります。(2)平面保持の仮定は、部材断面に剪断応力度の分布を考えると成立しません。これも、部分的には局部応力と関係しますが、(3)サンブナン(St.Venant: 1797−1886)の原理を適用して実用的な解釈をします。この原理は「局部的に釣り合っている力によって生じる応力度の分布と大きさは、そこから充分に離れた場所では無視できる」と言うものです。定量的にどの程度離れ、また無視できる大きさがどの程度か、については特に説明がありません。具体的な応用の一例として、図3.13に示した鋼材の引張試験片の,寸法の決め方と、試験結果の解釈法がJISで規格化されています。試験片を咥(くわ)えて引張力を作用させる個所では、板厚方向に締め付け力が作用します。これは部分的に釣り合っている力です。この横締め力で生じる摩擦力で試験片に引張力を働かせるのですが、力の流れは部分的には複雑であって、どうなっているかは分かりません。しかし、試験片の中央では、応力度分布の乱れが最小になることが予測されます。つまり、引張応力度の平均値を引いた残りの応力度分布は、局部的に釣り合っている力だからです。試験片の長さ方向に見て、部材断面の歪みエネルギーを考えると、試験片の中央で極小になり、試験片の破断は常に試験片の中央付近で起きます。鋼材の破壊条件として、フォン・ミーゼス(Richard von Mises;1883-1953)の破壊歪みエネルギー一定説がありますので、それで説明できる現象です。コンクリートのような脆性材料は、剪断または引張の最大応力度になる個所で破壊します。したがって、局部的に応力度が大きくなるような形状や使い方を避けます。
科学書刊株式会社:電子版 「橋梁&都市 PROJECT: 2011」

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