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2. 論理演算

2.4 変数を二つ使う演算


2.4.5 集合論に論理学を応用するときの混乱

 集合論は、一つ二つと数えられる要素(通常は普通名詞)の集まり(集合名詞)を変数単位にします。集合を論理的に扱うときは、要素を「持つか・持たないか」または要素が集合の中に「存在するか・しないか」を「真・偽」の区別に使います。このとき要素の数え方を「全部・一部分」で大まかに区別します。言い方としては、英語の数量形容詞「all, some」を訳して、「すべて・或る」を当てます。要素を全く持たない場合を表す用語に空集合が定義されています。集合要素を数量形容詞で修飾した文が論理学の命題扱いです。例えば、「すべての猫は動物である」は真であり、「或る猫は動物である」は偽と判別します。このとき、猫が何匹居るかの具体的な数を使わないで、「居る・居ない」の二つの状態だけを区別するときに、フール代数で考えます。しかし「ここには猫が三匹も居る」「猫が一匹も居ない」の文を真としたいとき、ブール代数の「1」で考えると混乱を起こします。これを避ける一つの実践的な方法は、具体的な数を捨象し、真の場合を扱う論理変数「P、Q」は肯定文としておいて、この否定形の論理変数を別の変数「」と書いて追加し、四変数間の論理演算の組み合わせを扱います。演算子の種類で、連言と選言とを扱うときを表2.6に示します。この演算則は交換法則が成立します。内含の演算子⇒の場合、交換法則が成立しません。演算則は、表2.7にまとめます。

表2.6  否定文と組み合わせた「論理積・論理和」の演算則

番号
(*1)

記号
(*2)

論理値の
組み合わせ

文章での表し方

備     考

 




1
1

1
0

0
1

0
0

「Pである」ときを真(1)
「Qである」ときを真(1)
=「Pでない」ときを真(1)
=「Qでない」ときを真(1)
論理値の組み合わせの第2列は、肯定、否定を、第3欄を横に見て、「1,0」を代入するように演算する。

14
13
11
7
12
15

P∨Q
P∨
∨Q

P∨P
P∨

1
1
1
0
1
1

1
1
0
1
1
1

1
0
1
1
0
1

0
1
1
1
0
1

PまたはQである
PまたはQでない
Pでない、またはQである
Pでない、またはQでない
PまたはPは、Pである
PまたはPでない
 
(Q⇒P)と等しい
(P⇒Q)と等しい
(P∧Q)の否定…(*3)
(P∨P)≡P…(*4)
排中律…(*4)

8
4
2
1
12
0

P∧Q
P∧
∧Q

P∧P
P∧

1
0
0
0
1
0

0
1
0
0
1
0

0
0
1
0
0
0

0
0
0
1
0
0

Pであり、かつQである
Pであり、かつQでない
Pでなく、かつQである
Pでなく、かつQでない
PかつPは、Pである
Pであり、かつPでない
 
(P⇒Q)の否定と等しい
(Q⇒P)の否定と等しい
(P∨Q)の否定…(*3)
(P∧P)≡P…(*4)
…(*5)

7
11
13
14

P|Q
P|
|Q

0
1
1
1

1
0
1
1

1
1
0
1

1
1
1
0

PかつQである、ことはない
PかつQでない、ことはない
PかつQである、ことはない
かつである、ことはない
 
(P⇒Q)と等しい
(Q⇒P)と等しい
(P∨Q)と等しい

9
6
6
9
15

P≡Q
P≡
≡Q

P≡P

1
0
0
1
1

0
1
1
0
1

0
1
1
0
1

1
0
0
1
1

Pと、Qと、が等しい
Pと、Qの否定と、が等しい
と、Qと、が等しい
とが、等しい
PはPと等しい
 
(PQ)と等しい
(PQ)と等しい
(P≡Q)と等しい
同一律と言う

6
9
9
6
0

P⇒Q
P⇒
⇒Q

P≠P

0
1
1
0
0

1
0
0
1
0

1
0
0
1
0

0
1
1
0
1

Pであるか、またはQである
Pであるか、またはQでない
Pでないか、またはQである
Pでないか、またはQでない
矛盾である
 
(P≡Q)と等しい
(P≡Q)と等しい
(PQ)と等しい
 
[備考]
(*1) この番号は、表2.2の最左列に示した番号との対応を示します。
(*2) 記号を、排他的選言(XOR)に用いました。
(*3) ド・モルガンの法則。
(*4) トートロジー。
(*5) トートロジーの否定を、矛盾律と言います。
・論理法則として知られているもの幾つかが、表2.6の中に含まれています(備考参照)。
・論理法則は、大別して二種類あります。一つは、論理式そのものがトートロジー(恒眞式)であるもの。もう一つは、ある論理式と、別の表現の論理式とが同じ論理値になる場合で、「式A≡式B」のように書き表すことができるときです。
・記号「≡」は、数学記号の=」と考えてもよいし、また、演算子と考えることができます。後者の場合、演算結果がトートロジーになりますので、この論理法則は、すべて恒眞式です。
・ 「二重否定は肯定を表す」、と言う法則を「二重否定律」と言います。否定の記号に上横棒をつける方法は、ワープロ表記に向きません。否定記号に¬を使う場合、この法則は、「¬¬P≡P」と表すことができます。
・ 排他的選言(XOR)は、コンピュータ言語の論理演算子には良く用いられます。 XORの演算「PP」は、あるレジスタのビット並びをすべてクリアするときに応用します。

表2.7  否定文と組み合わせた「PならばQである」論理演算則

番号
(*1)

記号
(*2)

論理値の
組み合わせ

文章での表し方

備     考

 




1
1

1
0

0
1

0
0

「Pである」ときを真(1)
「Qである」ときを真(1)
=「Pでない」ときを真(1)
=「Qでない」ときを真(1)
論理値の組み合わせの第2列は、肯定、否定を、第3欄を横に見て、「1,0」を代入するように演算する。

11
7
14
13
13
7
14
11

P⇒Q
P⇒
⇒Q

Q⇒P
Q⇒
⇒P

1
0
1
1
1
0
1
1

0
1
1
1
1
1
1
0

1
1
1
0
0
1
1
1

1
1
0
1
1
1
0
1

PならばQである
PならばQでない
PでないならばQである
PでないならばQでない
QならばPである
QならばPでない
QでないならばPである
QでないならばPでない
(P|Q)と等しい
(P∨Q)と等しい
 
 
(P|Q)と等しい
(P∨Q)と等しい

A
B
C
D
a
b
c
d

 

P⇒P
P⇒

1
0

1
0

1
0

1
0

または 
または ⇒P
トートロジー
矛盾
[備考]:
・ 内含記号⇒で繋がった論理演算は、交換法則が成り立ちません(非対称)。代数式に書く場合、向きを反対にした逆向きの内含記号を使いません。一方、集合論では、図形Pが図形Qの全部または部分を含むことを図に描いて説明できますが、そのときの記号表示では、表2.4で示したように、⊃と⊂とを文表現に直しても誤解されません。
(*1) この番号は、表2.2の最左列に示した番号と同じである対応を示すものです。
   同じ番号同士は、同じ演算結果になることを示しています。
(*2) 上の4つの演算式で、左右の英字変数記号を入れ換えたものが、その下の4つの演算式です。
   これを最右欄の英字記号の大文字・小文字の対応「A,B,C,D」、「a,b,c,d」で示しました。
   下の4つの式は、上4つの記号⊃を逆向きの記号⊂に換える表記法と同じです。しかし、
   式を文に直して言うときは、読み順を逆にするので、なるべくなら⊂を使わないようにします。
(*3) 右端の英字「大文字・小文字」の対応は、図2.2の中で、論理式の種別を示すときに使います。
科学書刊株式会社:電子版 「橋梁&都市 PROJECT: 2012」

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