1.3 リベット締め作業と検査

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 リベット構造の製作では、最初に板の穴あけから始めます。薄板の軟鋼では、パンチすなわち押し抜きであけます。普通は、やや小さめの予備穴を押し抜きであけ、ドリルもしくはリーマーで所定の寸法精度に仕上げます。強度の高い鋼材はドリルで穴あけをします。鋼のリベット締めの作業は、リベット全体を900〜1100℃に赤熱して手早く締めます。工場では、油圧または水圧によって作動するジョーリベッター(jaw rivetter) が多く利用されます。これは、形が馬蹄形のアゴ状の形をしていますので、この名称があります。簡単な部材には固定式が、やや複雑なものにはクレーンで吊り下げるような可搬式が使われます(附録C.附録D.)。

 ジョーリベッターの届かない条件の悪い箇所や、架設現場では鉄砲と俗称するリベットハンマーが使われます。これは圧縮空気で打撃を与える装置です。これによるリベット締め作業はリベット打ちまたは鉄砲打ちと言います。鉄砲打ちの場合には反対側のリベットの頭部を押さえる当て盤が必要になります。これには、丸棒で作った簡単なテコを人力で支えるか、万力を使用するか、圧縮空気を使用する空気当盤などを使います。働長が長いリベットでは両側から同時打ちをすることもあります。

 工場でのリベット締めの際の圧力は、リベット断面積当たり6〜20t/cm2です。鉄砲打ちの場合には空気圧としては6kg/cm2程度です。あまり圧力が高いとリベット周辺の板が変形しますし、細長い部材では長さの変化が起こります。桁高の高いプレートガーダーのウエブが添接板の所で彎曲することさえあります。赤熱したリベットが当たる所にはリベットダイもしくはスナップが使用されます。これは特殊鋼に焼き入れしたもので、仕上げるリベットの頭部の形に応じて交換します。この外形寸法はリベット頭部の寸法よりも大きいので、スナップが正しい位置に座らないようなリベット打ちは原則として不可能です。例えば、山形鋼にリベットを打つとき、スナップが反対側の脚に接触しないようにしますが、その脚に既に打ってあるリベット頭部も邪魔になることも見込みます。山形鋼のリベット位置に関しては製作上から様々な標準が決められています(附録E.)。

 リベット打ちには、片方は少なくとも手が届き、当て盤が固定できる程度の空間が必要です。もう一方は、最小限、鉄砲のはいる余地がないとリベット打ちの作業はできません。当て盤の入る最小の間隔は15cm程度です。鉄砲のはいる寸法は約60cmです。これより間隔が狭いと、組み立て順序を考えて部材を設計しなければなりません。このような隙間は、ペンキ塗りの場合にも必要です。古いリベット構造を点検するときには、このような知識を弁えておく必要があります。

 リベット打ちでは、材料としての鋼材の金属学的な性質が経験的に応用されています。リベット鋼材はA3変態点721℃です。したがって、いかなる理由があっても、リベット打ちはこの温度に下がる前に完了しなければなりません。炉から取り出した生リベットの温度が高過ぎると、この温度に下がるまでの時間にオーステナイトの結晶粒が成長し、機械的性質が悪くなります。田中豊の実験によると、1330℃では火花が生じるほどの焼き過ぎ状態ですが、リベットが黒みを帯びて表面に酸化鉄を生じる800℃の温度までの自然冷却時間は約80秒です。鉄砲打ちによる作業時間の平均は、炉から取り出して打ち終るまで、大体30秒です。

 生リベットの長さはリベット穴の内部を充填し、頭部を加工成形できる必要部分の長さが要求されます。この長さは、リベット径の公差、リベット穴の合い工合、材片の締め付け程度、板厚の公差、などで差がありますので、製作工場毎に長さの標準が決めてあります。現場リベットは、工場リベットよりも2mm程度長いものが使用されます。リベットの働長が多種になるのは作業性からも好ましくありません。

 打たれたリベットは、検査をして、不良があれば取替えます。工場リベットでは不良リベットが少ないので、リベット検査は殆ど現場リベットや、打ち難い箇所に重点を置いて行なわれます。検査は

  1. 締まりの良否
  2. 焼き過ぎによるリベット頭部のアバタ
  3. リベット頭部の過不足
  4. リベット頭部と軸との偏心
  5. 亀裂、隙間

の項目です。この検査は肉眼による観察と共に、テストハンマー(検鋲ハンマー)を併用して行ないます。締まりの悪いリベットは、リベット頭部をテストハンマーで叩き、指で振動を感じるのですが、体験によりよく分かるようになります。不良リベットは、冷間で更に追い打ちコーキング(caulking)をしないことです。最もよい方法は細めのドリルで揉み抜いて打ち直しをします。なお、リベット締めで作られる水圧鉄管の継ぎ目では、添接板(これを目板と言います)をコーキングして漏水防止をすることがあります。


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